2019年10月17日

前回の東京オリンピック寄付金つき記念切手を楽しむ(3/3)

 短い間だが、十円玉を握りしめた小学生切手収集家だったことがある。東京オリンピックが終わって五〜六年後だろうか。
 そのとき、この「東京オリンピック募金」切手を集めた記憶はない。子どもの目にはジミに見えて、収集欲がわかなかったのか。それともプレミアがついていて、十円玉数個では買えなかったのか。
 いずれにしても発売時の、切手収集ブームと重なった大騒ぎに巻き込まれなかったのは、それはそれでよかったと思う。

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 この切手シリーズで、切手ブームに連動した大騒動が繰り返されたことは、初めて知った。
 切手の発行計画、制作や販売、そもそもの法整備からしても、暮れの大掃除のような騒ぎだったわけだが、四年間に六度にわたる発売ごとに、社会問題になるほどの騒ぎが起きていたのだ。

 ひとことでまとめると、とんでもない買い付け騒ぎと、ばかげた事後価格の浮沈である。
 ふつうに記念で欲しい一般客のみならず、切手ブームゆえの多数の収集家たちや、投機目的の切手業者や新参のブローカーらが、手ぐすね引いて発売を待っていた。
 にもかかわらず初回の発行数は、当時の記念切手の半分ほどしかなかったのだ。

 この切手シリーズには「5+5」と印刷されている。額面が五円で寄付金が五円ということで、窓口価格が十円だ。
 寄付金つき切手は人気がなく売れ行きが悪い、という経験則があったのに、額面と同じ募金額というのは多い。いまでいうと「63+63」、はがきに貼る切手が倍額なのだから。
 また、当時の皇太子、いまの上皇の、結婚記念切手(一九五九年)を景気よく二五〇〇万枚刷ったら、かなり売り残してしまったことがあり、国をあげての出来事の場合も、ほどほどの枚数にしようという判断が合わさって、東京オリンピック募金記念切手の初回分三点は、各・四〇〇万枚ということになり、三回目の発行数も五〇〇万枚どまりだった。

 その結果、発売のたびに東京中央郵便局に長蛇の列ができ、入局制限が行われる。通販の作業はパンクし発送が遅れに遅れた。学校をサボって買いにいく生徒が続出し問題化したともいう。
 まあ、そこまでは世相風俗ということで済みそうだが、発売されたばかりで、ふつうにはがきに貼って使える切手に、場合によっては三倍以上のプレミアがつく事態に。「切手は儲かる」という報道が過熱をあおり、発売日の郵便局のまわりを買取業者が徘徊したという。、
 あきれてしまうのは、きわめて多くの枚数が特定団体に割り当てられていた事実。その仕組みを利用した横流しが横行し、余録にあずかった郵政省・郵便局の関係者が、すくなからずいたらしい。黒岩重吾や梶山季之みたいな話だ。

 当初はこの思惑買い騒動を、切手マニア業界に限られた話と、ほとんど無視を決め込んでいた郵政省も、一九六三年秋の五回目(四種類発行)に、発行数をいっきょに一四〇〇万枚に増やす。
 おかげで入手難やプレミアは静まったが、値崩れを怖れた業者らの在庫がいっきに放出され、市中売価が額面を割るような状況になってしまった。冗談のような顛末である。

 素直に喜ぶべきか、それとも苦笑すべきか、切手に刷られた「+5」円、つまり寄付金は、なんと計画の三倍に及ぶ、当時の九億円以上が集まったという。
 単純換算はできないが、はがき用切手なら現在は「63+63」円になる、ということで考えると、いまの百億円以上が五輪資金になった、ということだ。
 これほどのカネが動いたとなると、こっそり隠匿した分で小遣いを稼ぎ、周囲を気にしながら、どっかの店のネーチャンとよろしくやった輩たちの背後で、はるかに大きな悪が笑っていたのかもしれない。

 世界とのスポーツ交流などどこにも見えない、せせこましい庭先騒動だが、この切手に興味をもったのも、二〇二〇年の開催で前回の記念切手にプレミアがつくかもという記事を、数年前に経済紙かビジネス誌で見たせいだ。切手は儲かる説に翻弄された人たちを揶揄する資格はない。
 それに、当時の日本人に、オリンピックによって世界が見えたかといったら、そういうわけでもないだろう。
 この切手シリーズは、スポーツ賛歌を象徴化する職人技が美しいので、あらためて注目したわけだが、参考資料がほぼすべて日本の競技や練習の写真である以上、五輪開催をかちとった戦後の日本人が頑張る姿を記念メダルに仕立てた切手だと、いえなくもないのである。
 
 いま、この切手シリーズは、一枚ずつなら、経年価値がつかない値段で売っている。
 さすがに初回の三点のみ、額面の二十倍くらいが標準価格で、それ以外は額面の五倍くらいのようだが、そもそも「5+5」円切手だから何倍といったって知れている。また、わたしの場合、ほとんどの切手が額面のままの売価で買えている。つまり一枚十円だ。
 いちどに全部はつまらないので、切手の即売会などで少しずつ集めているが、交通費がもったいないくらいだ。(ケ)

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● 切手の博物館・専門図書室に、お世話になりました。

【参考】
『切手』『郵趣』の一九六〇年代のバックナンバー
『解説・戦後記念切手シリーズ3』(内藤陽介/日本郵趣出版/二〇〇五年)
 ほか


*写真の解像度は低くしてあります


posted by 冬の夢 at 20:43 | Comment(0) | 切手 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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