2019年10月16日

前回の東京オリンピック寄付金つき記念切手を楽しむ(2/3)

 初回発売の三点を、あらためて見てみよう。
「やり投げ」「飛込み(水泳)」「レスリング」とは、ちとジミな感じもする。
 しかし、よく見ると、五輪開幕を告げるにふさわしい身体の躍動が美しい。時事的話題や人気選手の絵姿に頼らない、象徴的なスポーツ賛歌が存分に表現されている。

 さきほどの郵政省担当者の言によると「正方形の4つの直角部分が上下左右にそれぞれ正しく位置するスタイルに統一することとし」なので、やはりダイヤ型「◇」に貼って使うのが正式と納得しつつ、そのように三つの切手を並べてみた。

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 右上に向って「やり」を投げようとする選手の、筋肉の張り。
 飛んでいく「やり」の放物線のように背面回転する「飛込み」選手の身体のアーチ。
 爆発力と安定感のバランスがいい。
 そして二つの飛び出す動きを、力いっぱい受け止めた「レスリング」。左へ巻き返すような動きに説得力がある。
 ふとこの象徴美に、レニ・リーフェンシュタール的な危うさを感じてヒヤッとしたりもするが、凹版ならではの線の積み重ねで主題の芯を確実に彫り描く職人芸が味わえる。三つの切手を、こんなふうに見ていくのも面白い。
 また、統一感を乱すほどではないが、原図作成者が変わるとセンスの差が出るのか、切手によって微妙にテイストの違いがあるのも、なおさら面白い。三年間に計六回の発行で全二十種目──今回の東京五輪は三十三種目──が網羅されているので、みな集めたくなってくる。

 この文を書いている段階では、すべて集めてはいないけれど、ひときわ目をうばわれる切手がある。それは初回に続いて三点発行された(一九六二年)うちの「平均台」だ。

 両手を広げて前傾しながらバランスをとる女子選手。広げた左手は背景の円をつき抜け、「郵便」と「東京大会」の文字間に出ている。ほかの競技と違い、静かな動感が止まらずに伝わるところが、決定的である。
 ほかの切手を調べると、さきほどの「レスリング」そして「柔道」で、選手の足が円を飛び出しているが、配置のイレギュラーさに決まりはなく、選手などの一部が切れても円内に収めるのが基本だ。「バスケットボール」では、ボールがほとんど切れている。

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「平均台」をよく見ると、選手の軸足を天地の中心線に合わせることで安定感を大切にしつつ、選手をできる限り大きく見せる比率にしたようだ。結果として円から指先がはみ出たが、カットせず背景も塗り伸ばしたのだ。それはまさしく、指先も表現であることを重んじたために違いないから、この種目が「舞踊」でもあると正しく認識できていたのだ、と思ってみたりもする。
 じつは、写真をそのまま製版したのでなく原画を作ったのだから、フォーマットに合わせる調整はいかようにもできたはずだ。あえていくつか例外を作ったのは、小さな切手に大きな動きを表現するための苦心だったのか、それともちょっとした遊び心だったのか。そのあたりを、あたりはずれは気にせず想像してみるのも楽しい。

「平均台」から目が離せなくなる理由は、それだけではない。
 天地の角を結ぶ中心線上に、そびえ立つような軸足。これが太い!
 そういえば、この女子選手の手足、やや短い気がする。
 昔の女性の体型ということなのだが、木の実のような堅締まりの豊かな体は魅力的だ。前傾姿勢で上反りになったときの胸のふくらみが、しっかり刷られているのもいい。

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 な〜んだ、いつもの助平目線かぃ、じゃないですよ!

 前回の東京オリンピックで女子体操といえば、ヴィェラ・チャースラーフスカ。「名花」といわれて日本中に知られた選手だ。
 わたしは前回の東京オリンピックのときは幼すぎ、映像で見るのはずっと後になった世代。チャースラーフスカを動画で見たのもかなり後で、初めて見た「名花」の印象は「豊満」である。

 選手時代のチャースラーフスカは、けっして「デブ」ではないが、ご存じのとおり女子体操競技は、前回の東京オリンピックから十年ほどで、少女曲技団が高難度の技を競う場になったから──それを強く批判していたのが、チャースラーフスカではなかったか──豊かな身体の女子選手がふわりと動く体操競技は、とても印象的だった。
 また、その「ふくよか」な動きは、実際には鍛えられた身体が強靱なパワーに駆動されるさまでもあって、女性が、美のみならず力を合わせ持ったときの圧倒的魅力に、どきどきさせられもした。
 よく知られているとおり、チャースラーフスカは政治圧力に屈せず堅固な意志を貫き通したひとでもあったから、まさに心・技・体である。「名花」でなく「女武道」といったほうが、よかったかもしれない。ダメか、それじゃ。

 もちろん、この切手の制作過程に、チャースラーフスカの情報が加わっているはずはない。この切手シリーズの原画は、ほぼすべて、国内競技の写真を参考に描かれているからだ。※
 となれば、力と心がこもった、このような豊かなプロポーションが、日本の女性においても「花」であったわけだ。なんとすばらしいことだろう。

 ならばと、切手の絵柄でたどってみると、国民体育大会の記念切手が目につく。一九六三年の第18回と、二〇〇四年の第59回の、女子体操選手のプロポーションの違い! 
 平成のそれは、スレンダー系というのだろうか、スーパーモデルと見まごう美の女神の身体比率だ。ところがいっぽう昭和のそれは、まるで雑貨屋のオバチャンである。

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第18回国民体育大会記念切手 1963 第59回国民体育大会記念切手 2004

 しかし、平成のそれに、生活の豊かさと健康にあふれた現代を象徴する美しさを感じるかといったら、どうもわたしは、その気になれない。昭和の身体のほうが、ずっと健康で美しく、魅力的だ。
 濱谷浩の『昭和男性諸君』に連なる、その終わりのほうの世代ですから、といってしまえば、それまでだけれど。

 なぁんだ結局のところ、切手になった「昭和の女体」を見てエロな興奮をしているだけじゃないかといわれたら、そうかもしれない。
 ただ、現代の女子体操競技、つまり少女曲技団がレオタードで跳ね回る姿を見ると、わたしにはその趣味はないが、そちらのほうがはるかに猥褻だと感じる。(ケ)

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※「ボクシング」は資料不足で、ファイティング原田のタイトルマッチの写真を資料にしているそうだ。プロの試合でもあり、もちろん切手に原田の姿を見てとることはできない。

Originally Uploaded on Oct. 17, 2019. 19:30:00
*写真は解像度を低くしてあります

posted by 冬の夢 at 00:05 | Comment(0) | 切手 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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