2018年11月15日

第二次国立公園シリーズ切手の魅力(2/8)─ 出戻り初心者郵趣事情

 日本切手會の会報『郵便切手』の創刊号に掲載された「國立公園切手の發行について」が、「今後数年間に順次発行さるべき国立公園切手」の「最初」と宣言した「日光国立公園」(一九三八)について。
 じつはこれは、国立公園シリーズ切手の実質第二弾にあたる。シリーズ化の前提なしで「富士箱根国立公園」が「日光」の前に発行(一九三六)されているからだ。それが好評だったので、国立公園切手のシリーズ発行に勢いがついたらしい。

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「富士箱根」は、日本の記念切手で最初にグラビア印刷を採用したものとしても知られている。

 さまざまな印刷方式を比較説明すると、切手の話がどこかへいってしまうから、「富士箱根」と、それまでの日本の記念切手を比べてみよう。ひと目でわかるほど違うのだ。
 日本の記念切手の絵柄は、「富士箱根」までは、おおむね「図案」的で証券か商品券のようだ。手書き原画を凹版に仕立てるので、原画担当者と版面担当者は別である。
 切手は印刷面がとても小さいから、それもすごい技術だが、「富士箱根」以降の国立公園シリーズは、まるで違って見える。
 写真製版に適するというグラビア印刷の特性をぞんぶんに発揮し、切手の小さな画面から、その場に立って眺めているかのように風景が力強く立ち上がる。単色刷なのに豊かで奥行きの深い視界が広がり、リアリティや迫力で、それ以前の記念切手とは圧倒的な差があるのだ。

 と説明しても、「ウチのパソコンとプリンタで写真をプリントしてもキレイだけど」といわれるとつらいので、グラビア印刷に、すこし深入りしてみよう。

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 グラビアというと切手ではなく、「ヌードグラビア」や「グラビアアイドル」を思い浮かべてしまうのだが、まさにヌードやアイドルなどの写真を商業印刷するのに最適だったのが、グラビア印刷技術だ。
「だった」とは、別の文でも書いたが、いまの雑誌カラーページは、ほとんどオフセット印刷。方式やロットにもよるが、オフセットのほうが低コストで校正の手間も少ない。仕上がりもよく、オフセット印刷すべてがそうなのではないが、一般に色調がクリアで、軽くキラキラした感じに刷れる。
 だとすれば、高精細なデジタル写真の印刷に適しているはずで、お色気グラビアの印刷がオフセットにとって代わられ、じつは「グラドル」は死語だというのも、当然の結果かもしれない。
 ならば、グラビア印刷は「グラドル」とともに消え去ったものなのだろうか。

 オフセット印刷は、版に乗せたインキをいったん転写体に移し、それが紙に圧される。
 グラビア印刷は、版の凹部にインキを詰め──凹版印刷の一種です──版と紙が直接接触する。
 したがってグラビア印刷のほうがインキ量が多く、密度や質感が濃く刷れる。なだらかな諧調再現が得意で、立体感や奥行感を出すのが得意だ。オフセット印刷の校正と違い、図版ひとつひとつの刷り上がりを、インキを「盛る」「はらう」などの職人技で追い込むこともできた。

 技術的なことはダメという人のために、オフセットとグラビアを見た目の違いだけで説明するならば。
 いまでは「昔のグラビアふうに見えるオフセット印刷」もあるに違いないから、エラそうに書いているわたしにも見分けられない場合がありそうだが、同じヌード写真をオフセットとグラビアで刷り分けてみるといいだろう。

 いまの感覚では、オフセットのほうがいいという人が多数派でしょうね。ツルピカでキラキラし、わずかにフラットなユメユメしい感じに見えるのでは。
 グラビア印刷の特徴である、重厚感があり奥行が深く、諧調再現が緻密、という刷り具合のほうが、ハダカには合っているはずと力説しても、現代の感覚では濁りやクドさを感じ、暗い! という感想だろう。「昭和っぽい」という否定の声も聞こえてきそうだ。
 けれども、なめらかさとメリハリが両立しているヌード写真──撮影が上手いということだ──をグラビア印刷で良好に刷れたら、「オンナがハダカでそこにいる」実感が最高に伝わるはず!

 まあ、こちらの思い込みも大きいですね。すみません、昭和っぽくて。

 そういえば、校正のためグラビア印刷工場によく行ったのも、十数年以上昔のこと。あの巨大な輪転機たちも、もう稼働していないだろう。
 こちらの発注品からして、長年採用のグラビアをオフセットに切り替える話が出ていた。工場の人たちとの雑談で、グラビア印刷している一般向け印刷物はすでに少数派と聞いた記憶がある。カレンダーかエッチな雑誌などで、グラビアの発色にこだわる多くはない発注元だけ、というような話だった。

 いかん! 寄り道しすぎた!
 そもそも例が悪い。読んでいる女性は怒ってしまったに違いない。
 いそいでまた戦前へタイムトリップ。国立公園切手の発行事情に話を戻そう。

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「国家の非常時」に企画発行された国立公園切手は、それまでの日本の記念切手とは一線を画すものだったという話をしてきたが、注目すべき斬新な点が、さらにある。
「國立公園切手の發行について」には、発行時の内定七項目が報告されているが、そこにも掲げられていることだ。

 七つの内定事項のうち最初の三つは、当時指定された十二の国立公園を切手にすることや、種類・色彩について。
 四つめが「版式は原則として凹版とし最高技術を発揮する」という、ここで話題にしてきた印刷のこと。凹版に内定していたが、風景を自然に再現するには「グラビユアの方が適してゐる」ということになった。
 国立公園シリーズのプロトタイプ、「富士箱根」で「グラビユア」が初採用されたと紹介したが、このときは内閣印刷局(現・国立印刷局)に技術がなく、外注している(大日本印刷)。シリーズ本格開始の「日光」の制作段階で、のちに「局式凹版」として名をはせる技術を印刷局が得ていて、「大いに自信があるから是非試行させて欲しい」という申し出があった。そこで方式を変更、合わせて、五項めの「思ひきり精撰する」とされた印刷用紙も変えられている。

 さらなる斬新さとは、六項めの「原圖は実地で多數撮影し最も嶄新・正確を期する」だ。
 うっかり読み流してしまいそうだが、事実上初めて、撮りおろしのロケ写真を印刷原稿に使ったということだ。
 どういうことかというと、おそらく初めて「記念切手を作るためにわざわざ写真を撮りに行った」のである。(ケ)──この項つづく

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Originally Uploaded on Nov. 21, 2018. 19:00:00
*写真の解像度は低くしてあります


◆記念切手についての記事は→こちら←
posted by 冬の夢 at 00:05 | Comment(0) | 日記 旅・徘徊・発見 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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