2018年08月20日

切手を買いに ─ 出戻り初心者郵趣事情(4) 神保町の切手店へ

 東京都千代田区神保町。
 炎暑がすこしやわらいだ週末の「古書のまち」は、そこそこ、にぎわっていた。
 が、古書店が集中する靖国通りの南側、すずらん通り界隈は、平日は近辺の勤労者で混む食堂も喫茶店も休業。静まり返っている。

 その一角、小さく細長いビルの三階に、切手の専門店がある。
 切手収集家ならたいていの人が知っているはず。
 この文を書くため、お店のウエブサイトを調べると「切手買取専門店」となっている。あれ、販売はしていないお店なのかな、と驚いたが、そこで「シリーズ集めのつづき」を買ってきた話だ。切手の即売会に出店してもいて、もちろん店頭で買うことができる。
 子どものころ、すこし集めたきりで初心者同然の身には、路面店でないショップのスチールドアを開くのはちと勇気がいったが、入ってみた。
 
 うわ!
 ちょっとした事務所ほどのお店スペースの壁面は、上から下までファイルでぎっしりだ。長机と椅子は用意されているものの、その上も周辺も、プラケースや、むき身の品々で埋まり尽くし、立っている場所もないほど。
 なので、どこで、どう探し、どう買っていいかわからない。それをいうなら、お店の中に何人かの人がいるが、誰がお店の人で誰がお客さんなのかもわからない。
 
「国立公園、国定公園シリーズの新しいほうのを集めているんですけど……」と、おそるおそる声をかけてみる。ほかの専門店で「新しいほう」(一九六〇年代以降)をつけずに尋ねたら、何万円もするような収集家向け品がゾロゾロ出てきたことがあるから、気をつけた。
 あとからわかったことだが、応じてくれた人が社長さん。「この中に、あればある、という感じなので、どうぞ」と、大きなプラケースを2つ出してくれる。どちらも「新しいほう」の日本の記念切手でぱんぱんだ。「プレミアはつけてないですから」といわれる。額面程度で売ってくれるということだから、安心して探すことに。

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 かんたんに説明すると、六〇年代以降の日本の記念切手で、いま一枚何万円というような稀覯価格のものは、たぶんない。額面プラスアルファから数倍までの売価がほとんどだろう。発行数増加と収集家数減少で、品余り状態なのだ。
 ならば現代の切手コレクターがねらう品は何かというと、使用済み切手。いちど使っちゃったのになぜ価値があるか。珍しい場所や日付の消印がある切手は、とうぜん数が限られるからだ。ふだん使いの「通常切手」は、繰り返し刷られるから用紙や印刷が違うマイナー版があるそうで、そこにも目がつけられるらしい。
 じつは今回、買いに行ったお店も、おもな取扱品は日本や世界の使用済み切手。収集家人気があるという中国切手なども扱う、かなりマニアックなショップだ。
 この店の社長は、もともと収集趣味の人。外資系証券会社勤務をへて、コレクターの夢のデパートを作りたいということで、同じビルの二階に、コインやラベル、カードなどのコレクションショップも開いている。お客さんにまじって在庫整理をし続けていて、お宝発見の声もあげる。多数の買い取り実績あってこそ眠れる貴重品発掘も可能なわけで、ゆえに「買取専門店」とうたっているのだろうか。やや古い切手が貼られた書状がたくさんある場合、捨てる前に、このお店に相談するといいかもしれない。
 お店の人とお客さんの区別がつかないといったが、それもそのはず、社長をはじめスタッフのかたがたも、みな収集家だという。でなければ買取判断ができないし、整理も、お客の求めるマニアック品をさっと出すこともできない。
 そして、このお店は、サクラダ・ファミリア状態なのだ。終わらない整理を永遠に続けている、そういう感じだ。

 店内では、常連らしきお客さんと社長やスタッフさんたちの間で、たまに収集ジョークらしき面白そうなやりとり──用語がひとつもわからない!──があるほかは、静かなものだ。隣席のお客さんが、百枚単位くらいにゴムどめされた、小さい使用済み通常切手の怖ろしいほどの山を繰る「さこさこ」という音しか聞こえない。
 ふと気づくと、そのお客さん、どう考えても、いつかの即売会で「お店を出していた」側の人。その人からも発見の声があがった。用紙が異なる珍しいバージョンらしい。周囲から「よく見つけましたね!」の声。
 こんなにどうでもいいことに、みんなで、こんなに熱中できるなんて。うらやましい気持ちになってくるのが不思議だ。

       〒

 さて、まわりばかり見ていないで、探さなくちゃな。
 今回は未整理の鉱脈から選り出す作業なので、とにかく目についたらピックアップ、同じ切手はまとめておき、箱の中身をぜんぶ見てから、持ってきた「日本切手カタログ」と見比べて、いる分を買うことに。

 子どものころ持っていたが、どこにやったかわからない切手たちの絵柄が、懐かしく目に飛び込んでくるが、がまんして無視。スクリーニングマシンと化し「さこさこ」を繰り返す。
 ひと箱、終わった所で休憩外出させてもらい、「リアルゴールド」ひと缶! 全体で三時間くらい見ただろうか。そこからはルーペを拝借、同じ絵柄でまとめておいたものから「買うやつ」を選んだ。
 ぜんぶで五十枚ほどと成果があり、計算ヘチュセヨ。最初の社長の話どおり額面販売で、その額面が十円、十五円なので、千円しないどころか、お茶代程度である。おつりの端数は「ご祝儀」にして(といっても五円ですが)、この日の採掘は終了となった。(ケ)。

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※写真は解像度を低くしてあります。
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posted by 冬の夢 at 19:04 | Comment(0) | 日記 旅・徘徊・発見 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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