といって、ベビーブーマーのハイティーンが何人か集まったとする。
せ〜の、で出した最初の音、それがそのまんま五十年続いている、そんなプロのバンドがあるのだろうか。
ある。
米ケンタッキー州ルイズヴィル出身の仲間を軸に、一九六七年にフロリダでスタートしたロックバンド、NRBQ!
ロックを音楽学校で習うのが当たり前になり、そこらの高校生が高速フレーズを楽勝で弾いてみせたりするいまの時代に、いったいどこのアマチュアおやじバンドだみたいな、けっつまずいたような、ちょっとヨレた、行き当たりばったり感いっぱいのライブをいまも続けている。
どういうタイプのロックをやっているかというと、ベースはカントリー風味のロックンロール。ロカビリーみたいなやつだ。一九五〇年代のやつですね。そこへビートルズふうのポップなブリッジが顔を出す。そしてジャンプやジャイブ、つまりコミック調のビッグバンドジャズ、あのウキウキする調子も追加。なるほどバンド名に「カルテット」(New Rhythm and Blues Quartet)とつけているのは、ジャズへのこだわりかもしれない。
歴代メンバーには、脱退後にカントリーミュージックの重鎮作曲家になったのもいるし、バンドの曲が全米で大人気だったアニメ「シンプソンズ」の挿入曲になりもしたのに、ぜ〜んぜんビッグでない。同時期にデビューした「クリーム」は三十七年後に、解散コンサートをやったのと同じロイヤル・アルバート・ホールを満員にしたけれど、NRBQは五十年後のいまも、全米各地のクラブを月三ペースほどで、こつこつ回っている。
わたしは行ったことがないが、二十年も前から、日本へも何度か演奏しに来ているそうだ。ちょっとしたライブスペースなら埋められるくらいの数は、熱心なファンがいるらしい。それもいい話だが、東京ドームや日本武道館には縁なんかないけど、聴きたいやつがちょっとでもいるなら日本へ行き、いつもの調子でライブをやろうぜっていうところが素晴らしい。
だから、とにかくライブがいい。楽器をジャカジャカ鳴らしシンプルな曲を歌うのが、ロックの楽しさなんだぜと教えてくれるバンドだ。やる曲はその場で決めているみたいだし、歌詞やコーラスも、まあこんな感じだよな、ってふうにやっている。青筋立てて一音のミスもなく弾いたり歌ったりし、豪華な照明やギミックをピタリと合わせた「ロック」を、ありがたがって拝聴するのが心底バカらしくなってくる。
だからといって、いわゆる「ヘタウマ」なのかといったら、とんでもない。
リズム!
リズムが素晴らしい。
だからこそ「ヨレ」が心地いいのだ。
そしてどれか一曲といわれたら、迷わない。「I want you bad」だ!
Lately, it's been driving me mad
近ごろさ アタマがヘンになってんだ
'Cause you're the best thing, that I've ever had
ってのも おまえが最高なワケよ これまでで
And I want you
だから おまえがほしい
Oh, I want you bad
くそ めちゃくちゃに
Come on, let's give it a whirl
ひっかき回そうぜ
'Cause we can shake up, the whole wide world
ってのも 俺たちなら 世界中ガクガクいわしてやれるもんな
And I want you
だから おまえがほしい
Oh, I want you girl
ああ おまえがほしいんだ
I'm runnin' out of things to do
ほかにやることが なくなっちゃうんだ
I've got no other plans, but you
おまえ以外は なにも思いつけないから
Never, you'll never be sad
悲しくなんか 絶対にさせないぜ
I'm gonna make you, feel so glad
俺が 喜ばせてやるからさ
And I want you
だから おまえがほしい
Oh, I want you bad
ああ めちゃくちゃに (以下略)
イントロのギターとリズムを聴いた瞬間に、このバンドのファンになった。歌が流れたとたん、ワクワク感が止まらなくなった。なんて単純で、いい歌詞なんだろう。そしてサビの歌詞二行目、Bm → G → A7! 女を口説くならこのコード進行ですよ!
そこそこカッチリまとまっている「AT YANKEE STADIUM」(一九七八年)──ヤンキースタジアムライブという意味の題はもちろんジョークで、スタジオ盤である──に収録のテイクが聴きやすいが、一九九六年の東京でのライブを収録した盤「Tokyo: Recorded Live at on Air West Tokyo」(一九九七年)がいい。全盛期のメンバーではないのだけれど、この盤のほうがはるかにノリがよくて、バンドらしさがバッチリ聴けると思っている。
「I want you bad」はこのライブCDでは一曲目、つまりライブのオープニング曲なのだが、あまりにユルい演奏でカクっとくる。こんなんで最後まで持つのかよ!
いやいや、しつこいが「とんでもない」!
あっという間にCDは終わり、つぎはいつバンドに出会えるだろうと、このライブ会場(東京・渋谷ですかね)に集まった、多くはないがけっして少なくはないファンといっしょに別れを惜しんでいる。二十年も前の盤なのに、回しているあいだは不思議に、わが身の疲れも老いも、忘れている。(ケ)
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