2016年11月10日

「大統領選候補トランプ氏=トランプ大統領」でないことを願う

アメリカの大統領選で共和党のトランプ候補が勝った。英国のEU離脱を上回るサプライズが起きてしまった。
そしてトランプ勝利以上に驚いたのは、トランプ氏の勝利宣言の会見であった。選挙戦での罵詈雑言のオンパレードとは打って変わって、実に静かでまともな会見だったのだ。
もしかして、これはトランプ氏の戦略だったのではないか。トランプ氏は大統領選に勝つためには、普段大統領選の投票などには行かない白人の低所得者層を動かすことがキーファクターだと考え、彼らに「受ける」キャラクターを演じていた。東海岸のエスタブリッシュメントと敵対することで、中南部の大衆からの支持を取り付ける。そして、大統領選に勝利し、その戦略が当たった途端に、今度は手の平を返して、目標を四年後の大統領選再選に切り替える。支配階級から見て史上最も相応しくない大統領候補という最低のイメージがあればこそ、普通っぽく見せるだけで「意外にやるじゃん」と思わせられる。その良い意味でのギャップ感が四年後の選挙で支配階級からの票につながる。そのときには白人低所得者層の支持など必要ない。メインストリームからの支持基盤があれば、軽く民主党候補を一蹴出来る。そんな戦略をトランプ氏は周到に準備して、あえて史上最悪のヒールを演じていたのではないか。そんな思いに囚われてしまった。

振り返ってみれば、民主党のクリントン候補の印象は、「ぼんやりとした」「はっきりしない」「曖昧な」ものに過ぎなかった。一方でトランプ氏はと言えば、やたらめったらにクリアであった。「TPPは発効しない」「在日米軍駐留費を日本に請求」「メキシコ国境に壁を建設」。良し悪しは別にしてトランプ氏の主張は単純明快で、ストレートに伝わるものばかり。極端な物言いで相手を怒らせるのだが、投げかけられた言葉の裏には「保護主義によって国内経済を再生させる」「世界の警察はやめる」「移民を制限して職を奪われないようにする」といったわかりやすい政策が見て取れる。これが白人低所得者層に受けた。
さらにそうした人たちにしてみれば、マスメディアは支配階級の最たるもので、彼らが仕切る意識調査などに正直に答える義務など持っていない。心の底ではトランプに投票すると決めていながら、その本音をマスメディア主導のアンケートでさらすはずはない。だから、マスメディアによる事前調査も投票当日の出口調査もまったく意味のないものになってしまった。
日本に伝えられていた報道も、元をたどればアメリカ東海岸のマスコミ情報ばかり。ネット検索しても、ニューヨークタイムズ電子版やCNNなどどれもエスタブリッシュメント御用達伝言板に過ぎなかった。東地区のひとつでしかなかった日本では、アメリカ中南部の白人労働者の実態には触れることさえ出来ない。結局のところ「ヒラリー優勢」報道は単なる幻想であって、願望でしかなかったということだ。

不動産業を父親から受け継いだトランプ氏は、失敗を繰り返しながらも卓越したビジネスセンスで莫大な富を築き上げてきた。そんなトランプ氏をセクハラ差別主義者と蔑んできたのは、マスメディアをはじめとする支配階級の驕り高ぶりだったのではないか。実は選挙戦を俯瞰し、巧妙に戦い抜いたのはトランプ氏ではなかったか。だからこそ、勝利会見を機に、至極真っ当な大統領の姿を演じるモードに切り替えられたのではないか。
トランプ氏のトラップに見事にはめられた支配階級の人たちは、今度はトランプ大統領が仕掛ける罠にかかるのかもしれない。たぶん、トランプ大統領はメキシコとの国境に壁を建設するなどというバカな真似はしないだろう。逆にメキシコに対してはうまく擦り寄ってアメリカに有利な通商条約を結ぶかもしれない。メキシコにしてみれば、壁を作られるよりははるかにマシだ。マシだと思わせるのが、トランプ大統領のビジネス交渉術なのだ。
同じことが日本にも当てはまる。在日米軍を撤退させるという日米同盟を根本からひっくり返すような脅しをかけておいて、日本が「これでひと安心」と思えるような条件を引き出す。たぶん、日本は現状の「思いやり予算」を増額して「慮り予算」のレベルにまで譲歩せざるを得なくなる。トランプ大統領の術中にすでにはまっているのである。

もしかしたら、こうした見方は間違っているのかも知れない。しかしながら、トランプ氏が発言通りの孤立主義かつ差別主義かつ排外主義の卑劣漢そのものであるよりは、はるかに「マシ」な展開であることは確かだ。いや、そう願うしかない。そうでなかったらやり切れない、最悪の大統領選の結果なのであった。(き)


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posted by 冬の夢 at 23:37 | Comment(1) | TrackBack(0) | 時事 政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「粗暴キャラ」を戦略的に演じ、成功したら「真っ当キャラ」へ戻る。もしそれが本当で、「ビジネス交渉術」であり、これからは「真っ当」な大統領として分断された国民をひとつにまとめ──いかなる状態を「統合」と見なすかは大きな争点だと思うけれど、いまはおいて────「真っ当な」と正当に評価すべき政策を実行するつもりでいるかどうかは、閣僚ラインアップが決まった時点が、ひとつの観測ポイントではないでしょうか。噂の段階にすぎませんが、ニュート・ギングリッジ、ジェフ・セッションズ、ルドルフ・ジュリアーニ、サラ・ペイリン、ジャレッド・クシュナー(イヴァンカ・トランプの夫)など……。
Posted by (ケ) at 2016年11月12日 21:17
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