2016年09月24日

To be, or not to be は、生きるべきか死ぬべきか?

今さらの話ではあるが、ハムレットの(というか、あらゆる舞台を通して?)最も有名な台詞である To be, or not to be--that is the questionの日本語訳に対して常々不満を感じていた。不満といえば言い過ぎかもしれない。しかし、様々な日本語訳を見ていて、いつも「なんだかな〜」といった感じがつきまとっていた。とはいっても、「じゃあ、お前が訳してみろ!」と言われたら、それこそお手上げなので、結局はこの漠たる不満を何十年も持ち続けてきた。

ところが、先日、「でも、要するに、ハムレット君が言いたかったことはこういうことでしょ!」というのが不意に脳裏に閃いた。で、忘れないうちに書き留めておくことにする。

先ず、肝心の英文を引用すると、

To be, or not to be--that is the question:
Whether 'tis nobler in the mind to suffer
The slings and arrows of outrageous fortune
Or to take arms against a sea of troubles,
And by opposing end them. To die, to sleep--
No more; and by a sleep to say we end
The heartache, and the thousand natural shocks
That flesh is heir to. 'Tis a consummation
Devoutly to be wish'd. To die, to sleep.
To sleep--perchance to dream: ay, there's the rub!

引用文の冒頭は、巷では普通はおおよそ「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」となっているようだ。対抗馬としては「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」のようなものだろう。日本語訳がこの2種類に大別される理由は、要するに、to be, or not to be の前に省略されているであろう(潜在しているであろう)語句の解釈の違いによる。つまり、(I am) to be, or not to beと理解すれば、「生きるべきか、死ぬべきか」の方向に歩を進めることになり、(It is) to be, or not to beと理解するなら、「このままでいいのか、いけないのか」の方へ進むことになる。

しかし、ふだんから詩ばかり読んでいる身としては、「しかし、シェイクスピア自身がわざわざTo be, or not to be と書いているからには、その両方の意味が一度に欲しかったはずだ」としか思えない。さもなければ、もっと明快に書いたはずだから。とすると、「生きるべきか?」にしてしまうと、「このままでいいのか」の可能性が消えてしまい、逆もまた然り。これがこれまで感じていた不満の大半だが、実は、この他にも「the questionを『問題だ』と訳していれば、それで事足りるのか?」という不満もあった。まあ、questionは「疑問」「問題」ですけどね……

で、先日閃いたのは
「そうなのか、そうではないのか、知りたいことはそれだけだ」というもの。
ここでハムレットが苦しんでいるのは、「いっそのこと自殺したい」ということよりも、「あの亡霊は本当に亡き父親の亡霊なのか?」とか「この牢獄のような宮廷から逃げ出した方がいいのではないのか?」とか、「母は本当に不倫をしていたのか?」とか、「復讐しなくてもいいのだろうか?」とか、ありとあらゆる禍々しい疑問の渦に対してであり、その上で、「それだけが唯一肝心の問題だ」と言っているわけだ。とすれば、つまりは、「本当のことが知りたい!」という叫びと理解すべきであろう。

『ハムレット』に興味のない方にはどうでもいい話題であるとは承知しているが、舞台を見ていて、あの場面でいきなり「生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ」と聞かされるたびに、強い違和感を感じていた観衆の一人としては、少なくとも自分の語感としては、こちらの方がずっとしっくりくる。(とはいえ、ちょっとあっさりし過ぎとも感じるが、これ以上日本語を補うと、今度は原文の簡潔さに違反してしまう……)

実際のところ、英語のto不定詞は難しい。引用した英語にはもう一つ、to die, to sleepという繰り返しがある。これも日本語にしようと思うと一苦労だ。「死ぬことは眠ること」で十分といえば十分だが、しかし、これもちょっと……

というわけで、ブツクサ文句を言うなら自分で訳せ、と。

そうなのか、そうではないのか、知りたいことはそれだけだ。
荒れ狂った運命の矢つぶてを心の内で堪え忍ぶのと
それとも、災難ひしめく大海に武器を手にして乗り出し、
逆らい立てることで一切合切けりをつけるのと、
どっちが気高いことなのか? 死ねば、眠れる……
それだけのことだ。それに、頭痛だって、さらには
肉体が当然引き受けるはずの幾千もの衝撃も
一眠りすれば治まるというではないか。
それこそ正に望むべき大団円だ。死ねば、眠れる。
しかし、眠れば、きっと夢をみる。それだ、厄介なのはそれだ。

ハムレットの名台詞はまだまだ続くが、ともかく、To be, or not to be は「(はたして)そうなのか、そうではないのか」ということで落着(ということに)。

(当初アップロードした文章に一部変更を加えました。H.H.)

posted by 冬の夢 at 00:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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