2016年04月09日

ハリウッドで映画化してもらいたい『ワイルド7』の「緑の墓」〜 追悼・望月三起也

先日、マンガ家の望月三起也が亡くなった。
昨年暮れに肺の癌が再発、今年三月に「長くて一年、短ければ半年の余命宣告を受けた」と公表(※1)した望月氏。それからわずか一ヶ月後の急逝は、あまりに早かった。
享年七十七歳。代表作『ワイルド7』に符合させるような歳に猛スピードで逝ってしまったのも望月三起也らしさだったのだろうか。

『ワイルド7』は昭和四十四年から週刊少年キングに連載されたアクションマンガ。マンガ誌全盛期にあって、少年キングの出版元は中堅の少年画報社。大手系のマガジンやサンデー、新興系のジャンプとチャンピオンに比べると存在感が薄く、人気の連載ものも少なかった。
キングを買って読んだことは一度もなかったのだが、当時の友人のひとりが持っていた単行本を借りて読んだのが『ワイルド7』だった。
法では裁けない悪党を、法に基づくことなく殺すことが許された特殊警察官チーム。「毒をもって毒を制す」ために獄中の犯罪者の中から七人のメンバーが選ばれ、元警視庁キャリアの草波隊長のもと「ワイルド7」が結成される。彼らは警視正の職位を持ち、銃や火器の使用と犯罪者抹殺が超法規的に認められている。
こうした設定はアクションマンガを成り立たせるための前提条件なわけで、『ワイルド7』を読む際に「殺人が許された警官」とか「射殺するべき犯罪者」とかについて深く考察してはいけない。要するに現代日本を舞台にしてガンアクションのドンパチものをマンガでやろうという試みだったのだ。「今のコマで飛葉ちゃんは撃たれる前に撃ったから正当防衛の範囲を超えている」なんてことを気にする人は読まないほうがいい。バイオレンスシーンが頻出して、血しぶきが飛び散り、たまに腕や足も吹っ飛ぶようなマンガだ。法令遵守は対角線上のはるか先に放っておいて、単純にそのエンターテイメント性を楽しみたい。そういうマンガは当時でも珍しかったし、表現規制が厳格化された今となっては少年誌では発表出来ないかもしれない。
少年キングの中でも異例のヒット作だったので連載期間は十年に及び、単行本も四十八巻まで出された。事件別にエピソードが独立していて、全部で二十一話ある中で、最も面白いのが「緑の墓」(※2)。
たぶん昭和四十六年くらいに描かれたはずで、それから五十年近い歳月が経った今でも十分に楽しめる。

ワイルド7に重要犯罪人護送の任務が与えられた。囚人四人を能登にある刑務所に運ぶのだ。ところがそこは軍需産業大手企業が軍備増強反対のデモ隊を収容するために作った私設刑務所=「緑の墓」で、真の目的は国家にとって邪魔となる政治思想犯などを幽閉する牢獄だった。「緑の墓」に到着したワイルド7だが、思想犯を救い出すために左翼グループがニセワイルド7として先乗りしていたため、その場で捕らえられ囚人と一緒に投獄されてしまう。抵抗を試みたリーダーの飛葉はエビフライと呼ばれる拷問器具で拘束されてしまった。彼らは「緑の墓」から脱出できるのか……?

まず着目したいのが「緑の墓」の舞台設定。草原の中にポツンと立つ巨大な岩山をくり抜いた尖塔のような建物。周囲を鉄条網で囲んだその先には地雷原が広がり、仮にそこを超えたとしても放し飼いのヒヒやヒョウが腹を空かせて待ち受けている。垂直方向に縦へ延びる収容所と平面上を横に広がる遮断区域。後に宮崎駿がよく使うことになる空間造形(※3)を、誰よりも先にマンガ界に持ち込んだのが望月三起也であった。
次にストーリー展開。前述したあらすじに複数のエピソードがくっ付いている。囚人の中にオヤブン(ワイルド7メンバーで元ヤクザ)の恩人が含まれていて、オヤブンはその恩人を連れて単独行動に出る。結果的にはオヤブンだけが捕らわれることなく、外部から「緑の墓」に突撃し飛葉や他のメンバーを救うことになる。
また、当時の世相を反映して学生運動家たちが多く登場する。収容された政治犯を救おうとする「紅軍団」や三千人のデモ隊を率いる軍団長など。中盤まではワイルド7の任務を邪魔する彼らが、オヤブンが編成する突撃隊の兵力として活用される。惜しむらくは、こうした登場人物たちが最後まで描き切れていないこと。紅軍団や護送した囚人など「あの人どうしたの?」と感じさせる幕切れになっている。
そんな不備を忘れさせてしまうのが、望月三起也の筆力の見事さ。兵器やメカを描かせたら右に出る者がいないというくらいに戦車やバイクが精密に描き込まれている。マニアが見ると一発で型式やモデルはわかるほどらしい。スクリーントーンを使わない(※4)ので、ページ全部が墨で塗り尽くされたように重く厚みのある画になり、さらにそこに重量感と躍動感が重ねられる。
ワイルド7と紅軍団の銃撃戦や学生部隊による突撃シーンは、まるでハリウッド製のアクション映画を見ているようで、ページをめくるスピードが一気に加速する。大胆なコマ割り、瞬間の切り取り、動作の残像表現。そこにバイオレンスが上塗りされて、至近距離からの着弾による身体の倒れ方や飛んできたナイフの刺さり方などは実にリアルに描かれる。
もちろん手塚治虫の影響を受けた路線上にあるのだが、マンガをアートに高めた手塚に対して、望月三起也はどこまでも実写映画に近い描き方を追求している。
こうした特長は『ワイルド7』シリーズ全体に通じて言えるものだが、「緑の墓」において顕著なのはフィクションとしてのフィット感だ。「殺人が許された警官」という設定自体が現実離れしているものの、エピソードの選び方によってはそれなりに現実に寄って行く必要が生じる。例えば都心の街頭でいきなり銃撃戦が繰り広げられるといったシーンは、明らかにウソだ。いくらリアルなタッチを駆使しても、読んでいてどこか醒めてしまうような「あり得ない」アクションだ。
しかし「緑の墓」は違う。私設刑務所という舞台設定そのものが日常と切り離された密閉空間であるために、牢獄や拷問や襲撃があっても不自然には感じない。殺人警官チームは非日常的な空間においてこそ思い切り活躍出来る。全学連デモのような当時の色は出ているものの、無国籍で時代設定も問わない物語構成が『ワイルド7』の中でも突出した傑作になったポイントであったと思う。

となると「緑の墓」はぜひハリウッドで映画化してもらいたいと真剣に考えてしまう。エンターテイメントなフィクションであれば、舞台をアメリカに移し替えても十分に通用するだろう。
そもそも『ワイルド7』の作画における演出は、ハリウッド的な表現方法にすこぶる近い位置にある。
「緑の墓」のクライマックスでは、尖塔頂上部に設置された貯水タンクが爆破され、学生部隊が水攻めに合う。連載二年後に製作された『タワーリング・インフェルノ』(※5)も全く同じ仕掛けで、最上階の貯水タンクを爆破しその膨大な水量でビル火災を消し止める。もちろん、その逆もありで、二年後に連載された「谷間のユリは鐘に散る」は「あさま山荘事件」をベースにしながら、突き出した丘の上に建つ別荘がその土台を破壊され、屋敷ごと丘から滑り落ちる場面が出てくる。そのアイディアは、豪華客船が沈没し、天井と床がひっくり返る『ポセイドン・アドベンチャー』(※6)そのものだ。

ハリウッド映画化で悩ましいのが、ワイルド7メンバーのキャラクター設定だ。飛葉、ヘボピー、両国、八百、オヤブン、ユキ。いずれも個性豊かな人物たちで、そのうえ日本人らしくもある。日本発のコンテンツはすでにグローバルな人気があるので、今では欧米での映画化は当たり前になったが、どれも登場人物に難あり。それが成功作品が生まれない主要因だと言えるだろう。『ドラゴンボール』や『マッハGo!Go!Go!』などの映画化も、すべて原作のキャラクターイメージに負けて失敗している(もちろん未見なので単なる推測ですが)。
映画化という視点から離れて『ワイルド7』に最も近いアティチュードを感じさせるのは、たぶん『ダイ・ハード』シリーズだろう。ブルース・ウィリス演ずるマクレーン警部はいつも絶体絶命に追い込まれるが、超人的な勘と度胸で難局を乗り越える。超高層ビルやエアポート、タンクローリーなどの舞台設定も『ワイルド7』を彷彿とさせる。そんな見方からしても、昭和四十四年に始まった『ワイルド7』はアクションエンターテイメントの先駆者であったと断言出来そうだ。

蛇足になるが、望月三起也は早い時期からのサッカー狂でもあった。筆者が望月三起也の存在を知ったのは、実は『ワイルド7』ではなく週刊少年ジャンプに連載された『ザ・キッカー』であった。国枝東という架空の高校名が、実際には藤枝東だとわかったのは、かなり後のこと。キャプテンを友人に譲り、自らはナンバー2の鬼軍曹役を買って出る主人公に憧れたものだ。
そんなふうにしてサッカーに親しんだ望月三起也にとって、Jリーグ創設は真底嬉しかったに違いない。その時期に発表された読み切り短編では、Jリーグ開幕九年後の2002年を舞台としたサッカーの未来予想図が描かれた。
改装なった「新国立競技場」でワールドカップが開催される。当然ながら日本代表が出場しており、その主要メンバーである北澤豪(※7)はACミランのミッドフィルダーとして活躍している…。
今でこそ本田圭佑がACミランのレギュラー選手になっているが、1993年のJリーグ開幕時にそこまでの発想を持てた人がどれだけいただろうか。それひとつとってみても、その先見性は疑いようがないと思い直すのである。
あらためて望月三起也氏のご冥福をお祈りします。(き)


wild7.jpg


(※1)産経新聞「終活WEBソエナ」2016年3月17日掲載/望月三起也はインタビューに対して「人生の締め切りに『新撰組』を描く」と答えていた。
(※2)「緑の墓」は『ワイルド7』電子書籍版単行本14〜16巻に収録されている。
(※3)『未来少年コナン』の「インダストリア」、『ルパン三世』の「カリオストロの城」など。
(※4)スクリーントーンはイラストやマンガの手描き原画に使うシールで、さまざまな柄や濃淡の種類がある。今ではパソコンのソフトウェアを使えばあらゆる柄やパターンがワンクリックで処理できるが…。
(※5)『タワーリング・インフェルノ』は1974年製作のアメリカ映画。一大ブームとなっていたパニック映画の興行的頂点とも言える作品で、ジョン・ギラーミンが監督し、スティーヴ・マックイーンとポール・ニューマンが主演した。
(※6)『ポセイドン・アドベンチャー』はパニック映画をジャンルとして確立した1972年製作のアメリカ映画。ロナルド・ニーム監督。
(※7)北澤豪(きたざわつよし)。ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)に所属したサッカー選手で、日本代表が初出場したワールドカップフランス大会の予選で活躍したが、三浦知良とともに本大会メンバーからは外された。


posted by 冬の夢 at 20:45 | Comment(2) | TrackBack(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 2011年暮れにワーナー・ブラザーズ制作で映画化されていますが、見ましたか。
 飛葉=瑛太で、記憶違いでなければ、ワイルド7メンバー役の俳優全員が本当に大型バイクに乗れるというふれこみでした(未見)。
 ワーナー・ブラザーズ・ジャパンの「ローカル・プロダクション」で、制作委員会方式。邦画扱い、ということだと思います。
Posted by (ケ) at 2016年04月11日 09:50
もちろん未見です。
『ワイルド7』もそうですが、『ルパン三世』も見に行く気になりませんでした。
そもそもターゲットは若い人たちなんでしょうが、ついでにリアルで見ていた世代も動員したい、みたいな欲張り路線が映画を曖昧なものにしているように思えます。
Posted by (き) at 2016年04月12日 11:33
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