2015年09月04日

Beyerdynamic DT880とLehmann Audio Rheinlanderの話 


 ちょっと(かなり?)前に、またまたヘッドフォンを買ってしまった。数年前にGrado SR325isを購入し、それなりに気に入っていたのだから、それにそのときにも書いた通り、すでに他にもヘッドフォンを複数持っているのだから、新しいヘッドフォンを入手しなければならない必要は全くなかったはずだ。(と、これは家人が内心に飲み込んだ言葉と期せずして一致するかもしれない。)それなのに、いつの間にか目の前にはBeyerdynamicというメーカーのDT880というヘッドフォンが置かれている。

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(これが噂?のDT-880)

このBeyerdynamic(ベイヤーダイナミック)という会社名を知っている人がいれば、その人はすでに我が輩と同じ穴の狢。同病相憐れむ状態であることだろう。ドイツのヘッドフォン・メーカーだ。つまり、有名なゼンハイザーやAKGの同業だ。ちなみにゼンハイザーはドイツ、AKGはオーストリアの企業らしいが、ドイツ語圏に有名なヘッドフォン・メーカーが集中しているのが興味深い。(ドイツ語特有の子音の発音を正確に聴き取るためだろうか???)

メーカーに関する裏話的なことは他のサイトにお任せするとして、早速、DT880の個人的なレビューを書きたい。実はこのDT880というヘッドフォンにはいくつかのバリエーションがある(ゼンハイザーの、それなりに人気のあるHD-25という機種にも複数のバリエーションと派生機種があるが、それと似たような状況だ)。バリエーションは主にインピーダンスの違いによる。「インピーダンス」という専門用語を知っている人は、これもまたすでに我が輩と同病の可能性が高いのだが、インピーダンスとは抵抗のことで、要するに能率の違いに関係する。スピーカーやヘッドフォン(ヘッドフォンやイヤフォンは、つまりは超小型スピーカーのようなものだから)の能率というのは、ごく手短に言ってしまえば、入力と出力の対比の問題で、小さな入力でも大きな出力が得られれば(つまり、大きな音が出れば)、それは「能率が高く」、逆に、大きな入力でも小さな出力しか得られなければ、それは「能率が低い」ということだ。そして、「能率が高い」場合は、抵抗=インピーダンスが小さく、「能率が低い」場合は、抵抗=インピーダンスが大きい。

オーディオにおいてこのインピーダンスに関する議論は、ほとんど中世の神学論争のような状況になっていて、正直なところ、何が何やらよくわからない。よく分からないが、確実に言えることは、ヘッドフォンの場合、iPodなどの携帯プレーヤーで使うつもりなら、元々の機械が小型なことからも容易に類推できるように、それらの機器から得られる入力は微弱だ。したがって、インピーダンスが高いヘッドフォンだと、携帯プレーヤーのボリュームを最大にしても大きな音が出ないという事態になる。だから、もしもDT880を携帯プレーヤーで使おうと思うなら、インピーダンスが32Ωの、DT880 E/32という機種が適当だろう。ちなみに、これ以外の主要なバリエーションにはインピーダンスが250ΩのEdition 2005とインピーダンスが600ΩのE/600というものがある。

こうしたバリエーションに加えて、ベイヤーダイナミックのヘッドフォンの購入を考えている人間にとっていっそう悩ましいのは、DT880にはDT990とDT770という、名称からも明らかに兄弟機と目される機種が用意されている事実だ。(そして、それぞれにインピーダンスの違うバリエーションがある……)この名称だけを並べてみれば、AKGの場合がそうであるように、数字の大きな方がより高級機であり、財政問題が許すならば、真っ直ぐにDT990に向かえば済む話のように思われて当然だが、事の実際は決してそんなに単純ではない。DT880というキーワードでこのブログに立ち寄った人には「釈迦に説教」のようで恐縮至極だが、ヘッドフォンには「開放型(オープン)」「密閉型」「半開放型(セミ・オープン)」と呼ばれる区別があり、この「ベイヤー3兄弟」は正にその区別を反映しているという次第。つまり、990が開放型、880が半開放型、770が密閉型だ。開放型というのは、ヘッドフォンのスピーカーに相当する、耳に当たる本体の部分(ハウジングという)の、耳側ではない、外に面する方に、音が逃げるような工夫がされていて、そのために外部の音も比較的(かなり)よく聞こえるが、その分だけ開放感もある。もちろん、開放型のヘッドフォンだと、その人が何を聴いているのか、横にいる人には曲目まで当てることができる。我が家の場合、家人には「それはヘッドフォンの意味がない。うるさい!」と嫌がられもする。密閉型はこの逆。音漏れもない代わりに、ハウジングから音が逃げない分、少し窮屈な感じがする。しかし、それだけに音に圧力が感じられて、密閉型を愛好する人も多いらしい。公共の場で使うつもりなら、密閉型しか選択肢はないだろう。半密閉型というのは両者の合いの子ということになる。
 
個人的には、開放型の方が基本的に好ましいので、我が家にあるヘッドフォンはほとんど全て開放型だ。唯一の例外は、電車の中で使うために購入したゼンハイザーのAMPERIOR(前述のHD-25のバリエーションで、携帯プレーヤーで使うことを想定した機種)。したがって今回もDT770の出番はなく、早々にコンテストからは脱落した。990にするか880にするかは、それなりにかなり悩んだが、最終的には、「これまで聴いたことのない『半開放型』の音というものを聴いてみたい」という思いが募り、結果的にDT880がコンテストの勝者となった。(ちなみに、半開放型の傑作はAKGのK-240ということになっている。一度聴いたことはあるが、そのときは『是が非でも欲しい』とは思わなかった……)

実際のところ、インピーダンスでは迷いは全くなかった。最初から600Ωという、つまり一番能率が低い機種に半ば決まっていた。理由は、このバカでかいヘッドフォンを街中で使う気は毛頭なく、自宅で音楽をゆったりと聴く目的で購入するのだから、出力の大小に気を使う必要はなく、それなりのオーディオ用アンプのヘッドフォン端子には十分な駆動力が期待できるだろうから、それならば、抵抗値の高いヘッドフォンの方がホワイトノイズやタッチノイズに気を使う必要がないだろうと考えたからに他ならない。それに、正直に言うと、かつてのスタジオモニター用のヘッドフォンは押し並べて600Ωだったらしいから、単に600Ωへの憧れというものもあった。(とはいえ、実はすでにゼンハイザーのHD-424という「化石機種」を所有しており、それが600Ωだと耳にしたことがあるのだが、実際に耳にしている実感としては、250Ω程度のような気がする。)

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(これが化石機種のHD-424)

というわけで、DT880 E/600の実力についてだが、正直、最初は「まっ、こんなものか」という程度だった。GradoのSR325isを初めて聴いたときの感動はなかった。一番好ましかった点と言えば、その装着感だろう。装着感に関しては、ほぼ満点だ。自宅で聴く分には、眼鏡をしていようと、夏の日だろうと、全く問題はなく、我が家の数あるヘッドフォンの中でも最上位だ。が、肝心の音は平凡に感じられた。サンスイのオールドアンプに繋いで聴いていたのだが、ゼンハイザーの化石機種HD-424の方が、ジャンルを問わず、ずっと楽しく音楽を聴くことができた。

ところが! 比較的最近、これまた悪い虫が囁いて、近所のとある中古屋さんに、正直その名前も知らなかったヘッドフォンアンプが安値で転がっていた。Lehmann Audio Rheinlanderとある。名前から判断するとドイツっぽい。帰宅して急いで調べてみると、ふむふむ、海外での評価はそれなり、日本での評価は低い。しかし、何よりも、そもそもの定価がバカ高い。日本では5万円近い値段が付けられていたようだ。そして、心ある人はそれを「ぼったくり」とも呼んでいたらしい。つまり、コストパフォーマンスが極めて悪い、と。しかし、何と、このヘッドフォンアンプはプリアンプとしても使えると書かれているではないか! 今はサンスイのオールドアンプにその座を奪われたとはいえ、我が家にはQUAD 606という、やはりロートルの名機(パワーアンプ)が控えている。「いつかQUADと一緒に使うという手もあるか」と考えているうちに、そのRheinlander君、ちゃっかり(!)我が家に居を移すことになっていた。

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(これが晴れてDT-880の伴侶となったRheinlander)

そして、ようやく今回のブログ記事のキモに辿り着いた次第だが、何と、Rheinlanderという同郷の朋を得たDT880は、もはや完全な別人! オーディオには相性というものがあるとは常々耳にしていたが、それまでは半信半疑どころか、むしろ眉唾モノと思っていた。が、ここに相性というものがあることを自分でも認めないわけにはいかない事態が発生。というのは、RheinlanderとゼンハイザーHD-424との組み合わせでは、サンスイアンプとの組み合わせと比べて、可も不可もなく、良くも悪くもあまり変化がなかった一方で、RheinlanderとGrado SR325isの組み合わせからは、聴くに耐えないような音が出てきた。つまり、ベイヤーダイナミックのDT880だけがRheinlanderというヘッドフォンアンプの恩恵に与ったというわけだ。

こうした組み合わせの妙にも感心したが、ともかく、Rheinlanderで聴くDT880は非常に良いヘッドフォンだと思う。巷でもDT880のピアノの再現力には定評があるらしいが、この評価に全面的に賛成する。ピアノの音は、若干マイルドになるかなという特徴的な傾向があるものの、それも含めて、非常に好ましく再生される。弦楽器もオーケストラの再生も悪くない。一番苦手(?)というか、面白みに欠けるのは声楽かもしれない。概して、「上品で大人しい」再生音だから、その点でGradoの音と好対照を成すともいえる。深々とした音が聴きたいときはDT880を、軽やかな音を聴きたいときはHD-424を、清々しい音が聴きたいときはK-501(AKG)を、明るく元気な音が聴きたいときはSR325isを。

こんなことを嬉しそうに言っているから、次から次へとヘッドフォンが増えていくのか…… (H.H.)

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(これは今回出番のなかったAMPERIOR、我が家で唯一のイケメン?)



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posted by 冬の夢 at 02:08 | Comment(4) | TrackBack(0) | 音楽 オーディオ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 思わず感心したのはもちろん「ドイツ語圏に有名なヘッドフォン・メーカーが集中している」という指摘。
 その理由を勝手に想像してみた。無根拠なものもあり、すべてハズレかも。
(1)ドイツはダイナミックヘッドフォン誕生地だから、ヘッドフォンは「ご当地名産」である。
(2)ドイツは草創期からきわめて映画がさかんで「有名なヘッドフォン・メーカー」の多くも、もとは映画用PA機器製作会社だから、映画音声拡声技術の転用。
(3)前記に関連し、ナチス・ドイツのプロパガンダ政策上、映画やラジオ放送が重視されたため、パブリック用、パーソナル用ともに音声聴取機器の技術力が高かった。→これが当たっていそうに思って「有名なヘッドフォン・メーカー」の社史をざっと見たが、あまり関連はないみたいだ。いま若い世代に大人気の「ウルトラゾーネ」は九〇年代設立なので、どう考えてもジャーマン・テクノなどクラブカルチャー起源の起業だろうし。
(4)「有名なヘッドフォン・メーカー」が開発の中軸にしてきたのは、プロ向けのスタジオ用ヘッドホン。ドイツ映画とハリウッドの関係同様、ドイツ国外の音楽・音響スタジオにドイツ人(亡命ユダヤ人)が多かったせい。
(5)これらの陰謀論(笑)ではなく、ベルリン、ウィーン、世界最高のオーケストラが世界最高の環境で鳴っている地域なのだから、そこで作られたヘッドホンの音空間が悪いはずがなく、その良さが世界で評価され売れ続けてきたから。
(6)音質もさりながら、プロ向けスタジオ用、放送局用ヘッドフォンの使い勝手のよさ、アフターサービスの充実がダントツだった。
(7)ドイツ都市圏の住宅事情が昔から案外悪い。
(8)ドイツ人の多くは、ものごとを楽しむときは、ひとりでムッツリやるタイプ。
Posted by (ケ) at 2015年09月04日 23:59
ご同病ですね! そうか、言われてみれば「ウルトラゾーネ(Ultrasone)」もドイツか。そうなるとMade in USAのGradoと、SonyやAudio Technicaなどの日本のメーカーってのは貴重な存在なのかも。ヘッドフォンを作るということは同時にマイクロフォン(マイク)を作っているわけで、結局はラジオ放送との関連なのかもしれない……
Posted by H.H. at 2015年09月05日 01:48
ヘッドホンについて知りたいことがとても分かりやすく書かれていて、驚きました!ありがとうございます!
Posted by 匿名キボンヌ at 2017年03月08日 23:18
コメント、ありがとうございます。拙文が少しでもお役に立てたならば光栄です。そのうちまたヘッドホンのネタで何か書こうと思っています。そのときはまたお目通しをお願いします。
Posted by H.H. at 2017年03月10日 10:03
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